個人事業から法人へ移行する「法人成り」では、法人設立や税務署への届出だけでなく、これまで加入していた共済についても手続きが必要になります。共済の種類として中小企業倒産防止共済(経営セーフティ共済)と小規模企業共済がありますが、どちらも中小機構の制度でも、法人成りした際の引き継ぎ方法は同じではありません。
法人成りのときに良く問い合わせを受けますので、備忘録としてまとめておきます。
倒産防止共済は「契約者の地位承継」
個人事業主として加入していた倒産防止共済は、法人成りを理由に解約する必要はありません。「契約者の地位承継」の手続きをすることで、個人事業主から法人へ契約を引き継ぐことができます。この場合、それまでの掛金納付月数も法人へ引き継がれます。
ここで注意したいのが、手続きする窓口です。倒産防止共済の承継手続きは、現在の共済契約を管理している登録取扱機関を通して行う必要があります。小規模企業共済とは取扱いが異なり、どの金融機関・委託団体でも手続きできるわけではありません。法人成りの際には、まず「この共済契約をどこで手続きしたか」を確認しておく必要があります。
手続きは原則3ヶ月以内
契約者の地位承継の手続きは、原則として法人成りから3ヶ月以内です。3ヶ月を過ぎると遅延理由書が必要となり、1年半を超える場合には審査が必要になります。さらに2年を超えると承継手続きができません。法人設立後は税務・社会保険・銀行などさまざまな手続きが重なりますが、共済についても忘れずに進めておきたいところです。
主な必要書類は次のとおりです。
- 契約承継申出書
- 掛金預金口座振替申出書
- 個人・法人双方の印鑑証明書(発行後3ヶ月以内)
- 法人の登記簿謄本(発行後3ヶ月以内)
- 共済契約締結証書
税務上注意したいのは「40ヶ月未満」での承継
継続期間として確認しておきたいのがこれまで何ヶ月掛金を納付しているかです。倒産防止共済を個人事業主から法人へ承継する場合、個人事業側では、承継時の解約手当金相当額を雑収入として計上します。
この解約手当金相当額は、掛金の納付月数によって次のように変わります。
- 12ヶ月未満:0%
- 12〜23ヶ月:80%
- 24〜29ヶ月:85%
- 30〜35ヶ月:90%
- 36〜39ヶ月:95%
- 40ヶ月以上:100%
つまり、納付月数が40ヶ月未満の場合、これまで必要経費として計上した掛金総額と、承継時に収入計上する金額が一致しないことがあります。
一方で、掛金の納付月数そのものは法人へ引き継がれます。
ここは少し分かりにくいところですが、共済契約上の納付月数の引き継ぎと、個人・法人それぞれで行う税務・会計処理は分けて考える必要があります。
特に40ヶ月未満で法人成りする場合には、注意が必要です。
小規模企業共済は法人への引き継ぎは不要
小規模企業共済については、個人事業を廃業して法人の役員に就任する場合、「同一人通算」によって、それまでの掛金納付月数を引き継ぐことができます。
ただし、前提となるのは個人事業を完全に廃業していることです。
個人事業を残したまま法人の役員になり、そのまま同一人通算することはできません。
手続き期限は、事由が発生してから1年以内です。
主な必要書類は、
廃業届(税務署受付印・廃業年月日が確認できるもの)
法人の登記簿謄本(役員就任が確認できるもの)
納付月数通算申出書兼契約申込書(同一通算用)
などです。
なお、小規模企業共済は、加入した窓口でなくても手続きできます。倒産防止共済との違いですね。小規模企業共済の同一人通算は、加入時の窓口に限らず、委託団体や金融機関の窓口で手続きできます。マイナンバーカードをお持ちの場合は、オンライン手続きポータルを利用できる場合もあるようです。
また、法人なり後の掛け金は、法人役員になった後もあくまで個人で加入し、掛金は役員個人の所得控除になります。倒産防止共済は法人の経費になるのに対し違いがあります。
配偶者が「共同経営者」として加入している場合は注意
法人成りでは、事業主本人だけでなく、配偶者などが小規模企業共済に加入しているケースにも注意が必要です。たとえば、個人事業主である夫と、その共同経営者である妻が、それぞれ小規模企業共済に加入していたとします。法人成り後、夫は代表取締役、妻も役員に就任するのであれば、それぞれ要件を満たして同一人通算できる可能性があります。
一方、妻が法人の役員に就任しない場合には、共同経営者として加入していた契約を法人へ引き継ぐことはできません。その場合は、共済の請求を検討することになります。
法人成りの際には、事業主本人だけでなく、共同経営者として加入している家族がいないかも確認しておく必要があります。
まとめ
実務で個人事業主が法人成りした時に問い合わせを受けるケースが多い共済の手続きについてまとめてみました。問い合わせを受けるごとに確認していたので、事業主の方々も混乱するのでないかと思っております。
参考にしていただければ幸いです。
写真は、本文と全く関係ありませんが、一昨年走った東京マラソンの完走直後に撮ったもの。2027の一般分応募開始だったので申し込みしました。もし当たったら頑張りたいです。

